初心者のための海外長期滞在ガイドライン

2008年7月25日 Ver.1発行
海外長期滞在ガイドライン運営委員会/海外長期滞在相談室


「初心者のための海外長期滞在ガイドライン」に関する当NPOの考え方

 退職後のライフスタイルとして海外長期滞在を指向する人々が増えています。異国の文化や人々と触れ合って過ごす海外長期滞在生活は、取り組み方によっては第2の人生がより刺激的で生きがいに満ちたものとなるような貴重な経験を与えてくれるものと思われます。

 近年はマスコミ報道や出版物の影響でますます関心が高まっていますが、その一方で、偏った情報や事業者による誇大宣伝によって、冷静な判断が出来ないまま海外生活に踏み込んでしまい、高額の資金を詐取されるなどさまざまなトラブルに巻き込まれる事例も現われています。

 海外長期滞在というライフスタイルの選択はあくまでも自己責任であり、自立した社会人としての「見識」が問われるものですが、偏った情報が氾濫する現状においては、貴重な海外生活の機会をできるだけ安心・安全なものにしていくための、いわば「予防医学」としての情報提供が必要と考えられます。

 したがってNPO法人リタイアメント情報センター(R&I)では、これから海外長期滞在を指向する人々の手引きとなるように、消費者保護の視点で、初心者についてのガイドラインを作成しました。


NPO法人リタイアメント情報センターの考えるガイドラインとは

 この「初心者のための海外長期滞在ガイドライン」(以下ガイドライン)は海外における長期滞在を「りらいぶ」という発想に基づいて、退職後の人生をより充実した意義あるものにしたいと考える人々を対象としています。
「りらいぶ」とは以下のような生き方を選択することです。

●組織、肩書き、経歴にとらわれない自由な生き方
●知識、経験、技術を生かして社会に貢献する生き方
●初心に帰って新しい自分を発見する生き方
(NPO法人リタイアメント情報センター「りらいぶ憲章」)

 そうした人々が自己責任において海外で活動するにあたって、できるだけリスクを少なくするための心構えをガイドラインとしてまとめてみました。したがって、投資や利殖、あるいは単に生活物価が安いことだけを海外長期滞在の主たる目的として検討している人々には参考になるものではありません。

 このガイドラインでいう「初心者」とは、長期または短期にホテル以外の有料の滞在施設を利用して海外で生活する場合、その目的を実現するために第三者の何らかのサポートを必要とする人のことをいいます。

 このガイドラインは日常生活上のトラブルが絶対起きないことを保証するものではありません。日本にいてさえ小さなトラブルや事故は当たり前のことです。不慣れな海外で生活することで何か問題が発生しないわけがないのです。経験不足、情報不足から発生する日常生活の些細なトラブルなどは、忌避するよりもむしろそれらを他人任せにせず、自分で克服していけるように「経験値」を上げることが異文化の中で生活することの「楽しみ」ともいえるでしょう。

 しかし、R&Iに寄せられた「事例」の中には、そうした日常的なトラブル以外に悪質な事業者、個人による詐欺的行為による金銭的被害も発生しています。

 R&Iではガイドライン作成委員会を設置し、そうした悪質なトラブルを未然に防ぎ、不慣れな海外生活の中で、人々がより充実した生きがいの創造に少しでも安心して取り組んでいけるような指針となるべく、このガイドラインをまとめました。

《R&I海外長期滞在ガイドライン作成委員会》
佐藤 恒(セブ島ロングステイ詐欺商法を追及する被害者の会「コロナの会」会長)
平川 龍(ケアリゾート バリ代表取締役)
古川作二(キャメロン会顧問)
山崎美奈子(オーランド観光局日本事務所代表)
尾崎浩一(リタイアメント・ジャーナル編集長)




初心者のための海外長期滞在ガイドライン


●退職者ビザなど高額な資金を必要とする長期滞在ビザの取得は考える必要はありません

 滞在先の国によっては、退職者ビザなど数百万円、数千万円の高額な資金を必要とする長期滞在ビザの発給を受けられる制度があります。そのビザ取得を日本人に対して魅惑的に、そして積極的に勧める政策を行っている国、さらにビザ取得の代行業務を行っているサポート事業者もあります。しかし、そうした長期滞在ビザの取得は当初は考える必要はありません。

 まず数週間、数ヶ月レベルの滞在経験を重ね、実質的に海外における長期滞在がライフスタイルに定着した状態で初めて長期滞在ビザが必要かどうか考慮すべきです。

 しかし一方で、長期滞在する必要が発生しているのにビザを取得せず、短期に隣国への出入国を繰り返して滞在期間の延長を図るような行為はしてはなりません。また、それを推奨するような日本人または事業者とは接触すべきではないでしょう。

●マンション、一戸建て住宅など不動産やそれに類する会員権などの購入も当初は必要ありません

 理由は上記のビザ取得の場合と同様です。ホテルまたは賃借可能な施設を利用し、長期滞在が実質的にライフスタイルになってから検討すればよいことです。また、ビザの場合は為替の変動などの場合を除き、その資金は保全されていますが、不動産の場合は民間の取引ですから、日本国内でもトラブルは発生しがちであり、まして社会制度の異なる海外で多額の出費を伴う不動産やそれに類するリゾート会員権的なものの購入は初心者のうちは控えるべきでしょう。

●初心者が海外長期滞在を楽しむためには、事業者または民間団体のサポートを受けることが必要ですが、必ずしも安心できる事業者・団体ばかりではありません。そればかりか、中には無資格で諸々の斡旋をする悪質業者も存在します

 このガイドラインでは原則として、初心者の段階で実際に滞在する場合、サポート事業者を利用したり、海外滞在経験が豊富な人々によって運営される親睦団体的な非営利団体の協力を得たりすることが必要であると考えています。インターネットや雑誌・書籍などにはそうした事業者や団体の情報が氾濫していますが、そこに書かれた内容を鵜呑みにして事業者らと接触し、勧められるがまま不動産などの高額な契約を結んでしまい、トラブルになったり、詐欺まがいの契約で大金を失ってしまったりした事例もあります。

 そうしたリスクを少なくするためには、初心者に対して高額な資金を必要とするビザや不動産の取得または契約、さらには高額の投資を勧めるサポート事業者、あるいは意図的にそうしたほうが有利であるかのような情報提供をするサポート事業者・団体に対しては慎重に対応すべきでしょう。仮にそれが良質で好条件の案件であったとしても、初心者に対してそれを勧める行為は事業者のビジネスとしては当然のことであっても、当ガイドラインでは消費者保護の観点から推奨できません。

 実際に短・中期滞在を繰り返し、本格的な長期滞在に踏み切る必要性が発生した場合に限って、退職者ビザなど長期滞在ビザの取得や施設の長期契約、または不動産の取得など高額の出費を検討することが現実的な課題となります。その場合は当ガイドラインの対象とする初心者ではありませんが、被害やトラブルに遭遇するリスクは日本国内よりはるかに高いことを認識したうえで、自己責任において慎重に判断されることを望みます。

●海外長期滞在の同好会的な団体や現地の日本人団体のサポートを受ける場合の考え方

 長期滞在を楽しむ日本人の非営利親睦団体には海外滞在先でのボランティアによる支援体制を持つ団体もあります。本来そうした活動は営利事業としては行っていないため、サポートを期待してそれらの団体に加入する場合、あくまで自立した責任ある個人として参加し、滞在中のサポートについても事業者のようなサービスを期待するのではなく、経験不足な部分を補ってもらう程度に考えることが必要です。

 一方で、そうした非営利団体が無償で一般事業者に匹敵するサポートを提供すると標榜していても、初心者が依存心や依頼心が強いままに有料の事業者に相当するようなサービスを期待して、こうした団体に参加することは望ましくありません。その団体のサポートに不具合が発生した場合に、事業者とのトラブルに対処するような割り切った対応ができず、人間関係にしこりや問題を残すことがあるからです。

●ガイドラインが定義するサポート事業者とガイドライン賛同事業者について

 サポート事業者とは、初心者が経験不足を補い、滞在先で快適な生活をするために必要な情報提供や具体的な活動支援を有料で行う事業者のことです。大別して2つタイプがあり、実際に長期滞在用の施設を運営し、それに付帯して生活サポートを行っている事業者と、特定の施設を自社で所有または長期賃借せず、顧客の要望に合わせて現地の既存の宿泊施設の紹介から滞在中のサポートまで請け負う事業者があります。初心者が現地に長期滞在できる環境やそれに付随したサポート事業の実態を持たずに、不動産投資を推奨する事業者については、当ガイドラインは対象としていません。

 サポートの内容は各事業者の能力によって異なります。また現状では、事業者が提供しているサポートの質を第三者的に評価し、保証する基準も存在しません。マスコミやホームページの宣伝を信用して契約したところ、詐欺まがいの被害にあった事例も発生しています。
   
 R&Iではガイドラインの消費者保護の理念に賛同し、トラブルやクレームが発生した場合にはできるだけ消費者の立場に立って解決に努力することに同意した事業者をガイドライン賛同事業者として紹介し、事業者選びの参考としています。

 また、賛同事業者のサービスや企業姿勢の評価については、実際に利用した会員の意見を各事業者にフィードバックし、必要によっては公開してサービスの質的向上と標準化を求めていきます。

●旅行業者とサポート事業者は異なることを認識しましょう

 旅行会社として知名度が高く実績があっても、優れたサポート事業者であるとは限りません。有名な旅行会社であっても、長期滞在事業部門の多くは単なる窓口に過ぎないところが多く、実際のサポート事業はまったく別の専門事業者が行っていることがほとんどです。長期滞在サポートを旅行会社の看板で選択することは、必ずしも満足度が高い結果をもたらすとはいえません。

●サポート事業者を選ぶ基準について

 旅行会社と比べて長期間にわたり、しかも当初は依存度が高いサポート事業者の選び方は慎重さが求められます。では、数ある事業者の中から、初心者はどのようにそれを選んでいけばよいのでしょうか。

 サポート事業者にはビジネスとしてそれを行っている事業者と非営利団体が行っているものの2つのタイプがあります。非営利団体であるからといって質が低いとは限りません。一方、非営利団体だからといって消費者保護の理念や見識が高いとは限りません。このガイドラインを参考にしながら、自分の目的に適った事業者を選びましょう。

 事業者から提供されるサービスの満足度は相対的なものであり、誰でも100パーセント満足できる事業者はありません。滞在中にサポート事業者との間にトラブルが発生することもあります。さらには、最初は満足度が高かったとしても、時間の経過とともに事業姿勢が変化してしまう場合もあります。

 サポート事業者を選ぶ場合、当ガイドラインでは、現状では評価基準を事業者の理念と問題が発生した場合に消費者側に立って解決しようとする姿勢を重視しています。例えば、このガイドラインの賛同事業者はR&Iに会員の利用者から問題指摘があった場合、R&Iの調査に対して積極的に情報を開示し、問題の解決と今後の改善に取り組むことを定めており、消費者保護に積極的な姿勢を見せています。ただし、それはサービスの質を保証するものではありません。あくまでも実際に利用しながら学習していくことが必要です。

 しかし今後、当ガイドラインにおいても利用者側の情報をフィードバックして質的な評価を行い、その精度を高めていきたいと考えています。
 
●「りらいぶ」における生きがいの発見と仕事・投資などの資産形成についての考え方

 私たちは「りらいぶ」という生き方を実現するための有効な手段のひとつとして海外長期滞在があると考えています。滞在中は自分自身を高め、研鑽できるような活動とともに、現地社会に貢献するような活動に取り組むことが重要です。

 したがって、初心者にとって利殖や資産形成を目的とした活動は滞在中の安心・安全な環境を脅かす危険性を高める行為であると考えられます。仮に投資や就業の機会がある場合でも、その内容が現地の法律や制度に従うものであり、実質的に現地の人々との交流や社会貢献につながるものであることが大切です。

●親または自身の介護を長期滞在先で受けることは、現状ではリスクが高いと考えるべきです

 介護はこのガイドラインの対象外ですが、参考までに触れておくと、タイやフィリピンなどの介護者の個人的な資質である優れたホスピタリティと介護を提供する施設の能力を混同してしまうケースが増えています。現状では日本国内の水準と比較して海外の介護施設を評価した調査研究はなく、安心して任せられるかどうかの客観的な資料は不足しています。

 事業者側の宣伝を信用して、高齢で重度の要介護者を任せてトラブルに発展した事例もあります。軽度の場合に限り、少なくとも短期滞在を繰り返して様子を見るといった健常者の場合と同じ作業が必要です。

●トラブルや被害に遭ったら
(1)発生時の対応
 海外滞在中に犯罪やトラブルに巻き込まれて被害に遭った場合、信頼できる身近な人物やサポート事業者に相談し、現地の法律に従って適切に対応することが重要です。また、前もってそうした事態を想定して、どの程度サポート事業者の協力が得られるかどうか確認しておくことも必要です。

(2)被害回復について
 外国人の犯罪被害について、現地の警察や司法公的機関が積極的に動き、迅速な解決が行われることはほとんど期待できないでしょう。特に詐欺などの金銭的な被害は日本でも被害金額を回収することは極めて困難です。現地の日本大使館など政府関係機関もそうした邦人の被害回復について効果的な支援は期待できません。

 しかし、最も注意すべきは、そうした孤立した追い詰められた状況において、被害回復の協力を申し出る「親切な日本人」です。そうした日本人に解決を依頼することは金銭的な報酬を支払って二重の被害に遭う可能性が高く、自重すべきです。

 海外で遭遇した犯罪被害には、同じような被害者を生み出さないために不正に対して社会正義のために公正な裁きを求めて、断固たる姿勢で闘うことが必要な場合もあります。しかし、現地の司法機関が日本のように動かないからといって、金銭的被害回収のみを目的として、安易に現地の邦人人脈を利用しようと考えることは絶対に避けてください。悪意ある人々によって、損害をさらに大きくする可能性があることを認識すべきです。


賛同事業者・団体